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静岡地方裁判所 昭和63年(行ウ)9号 判決 1993年5月14日

静岡県浜松市海老塚一丁目六番六号

原告

高見征

静岡県浜松市大蒲町一一八番地の五

高見征邦

静岡県浜松市海老塚町二丁目一八番三〇号

高見秀邦

右三名訴訟代理人弁護士

三井義廣

静岡県浜松市砂山町二一六番地の六

被告

浜松東税務署長 中根眞治

静岡県浜松市元目町一二〇番地の一

浜松西税務署長 森茂伸

右両名指定代理人

渡邉和義

寺島進一

佐野武人

田村利郎

迎一夫

小田嶋範幸

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

浜松税務署長がいずもれ昭和六一年六月一〇日付でした原告らの昭和五九年分贈与税の各更正のうち、

1  原告高見征に対する更正については課税価格六五四万三九五〇円、納付すべき税額二〇七万六五〇〇円を越える部分

2  原告高見征邦に対する更正については課税価格六〇七万六五二五円、納付すべき税額一八四万四二〇〇円を越える部分

3  原告高見秀邦に対する更正については課税価格六〇七万六五二五円、納付すべき税額一八四万四二〇〇円を超える部分

をそれぞれ取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告らに対する各贈与税の課税価格の算出に当たり、原告らが贈与を受けた土地の共有持分の価額が争われた事案である。

一  争いのない事実等

1  本件課税処分の経緯(争いがない。)

原告らの各昭和五九年分贈与税について、原告らのした申告及び更正の請求並びに浜松税務署長のした更正(以下(原告らに対する更正を併せて「本件更正」という。)並びに本件更正に対して原告らのした不服申立て及びこれに対する応答の経緯はそれぞれ別表1ないし3記載のとおりである。

2  原告らに対する贈与(争いがない。)

原告らの実父である高見増蔵(以下「増蔵」という。)は、昭和五九年一一月六日、その所有する別紙物件目録記載の三筆の土地(以下「本件従前地」という。)について、その各共有持分四〇〇分の七〇を原告高見征に、各共有持分四〇〇分の六五を原告高見征邦に、各共有持分四〇〇分の六五を原告高見秀邦にそれぞれ贈与した(以下、原告らに対する右各贈与を併せて「本件贈与」という。)。

3  本件従前地についてされた土地区画整理事業の経緯等(証拠等により認定した事実についてはその末尾に当該認定に係る証拠等を掲記した。その余の事実は争わがない。)

(一) 浜松市は、浜松駅周辺地区における既成市街地の整備改善を図ることを目的として、昭和四六年三月三〇日、西遠広域都市計画事業浜松駅前周辺土地区画整理事業施行条例(昭和四六年浜松市条例第二八号、以下「本件土地区画整理条例」といい、本件土地区画整理条例による土地区画整理事業を「本件土地区画整理事業」という。)を制定し、本件土地区画整理事業を実施した。

(二) 浜松市は、本件従前地を含む本件土地区画整理事業施行区域内の各宅地につき、昭和五〇年三月一〇日付で仮換地指定を行ったが(以下「第一次仮換地指定」という。)、増蔵の所有していた本件従前地については八街区三一一番一の土地(四〇〇・一五平方メートル)が指定された。なお、第一次仮換地指定により仮換地として指定された各土地のうち七街区及び八街区に関する所在状況は別図1のとおりであり、増蔵が指定を受けた八街区三一一番一の仮換地は同図の青線で囲んだ部分である。

(三) 増蔵を含む第一次仮換地指定当時の七ないし九街区の地権者らは、昭和五四年一月ころ、大型商業施設誘致により、商業拠点施設としての駅前共同ビルの建設を目指す「共同開発グループ」と、地区内に整備される都市計画道路沿いに新たな商店街を形成を図る「個連店グループ」とに分かれ、このうち増蔵らの共同開発グループは浜松駅前共同ビル建設準備組合を結成したが、両グループは、同地区内に大型店及び共存共栄方式による商業ゾーンを作ることで一致していた(乙二、証人溝口英)。

(四) 第一次仮換地指定による仮換地の所在状況では、駅前共同ビルの建設予定地である七街区と八街区とが都市計画道路で分断されており、そのままでは駅前共同ビル建設の妨げとなることから、七ないし九街区内の地権者らは、仮換地指定の組換を浜松市に求めらるることとしたが、自らの手では仮換地指定の組換の原案作成が困難であるので、昭和五四年一一月一日、浜松市長に対し、組替案の作成上で生ずる諸問題に関しては地権者らにおいて処理解決すること等を付記したうえ、仮換地指定の組替を求める仮換地組替図(案)作成願を提出した(乙五、弁論の全趣旨)。

(五) 増蔵を含む浜松駅前共同ビル建設準備組合に属する地権者らは、昭和五五年二月に、浜松駅前共同ビル組合を設立し、同年一〇月、原告高見征(以下「原告征」という。)が同組合の理事長に就任した。

(六) 増蔵を含む浜松駅前共同ビル組合に属する地権者らは、昭和五五年六月二八日付けで株式会社イトーヨーカ堂(以下「イトーヨーカ堂」という。)から、同組合が建設を予定している駅前共同ビルの賃借についての申込を受け、同地権者ら相互間において、各自が有する仮換地は一つの共同ビルの一団の敷地として供されていることを確認することなどを内容とする「センタービル権利者相互間の協定書」を取り交わしたうえで、同年七月二九日、右申込を承諾した。

(七) 他方、浜松市は、右(四)の仮換地組替図(案)作成願に応じ、第一次仮換地指定において七ないし九街区内に仮換地指定を受けた各宅地に係る地権者らに対し、昭和五六年六月一〇日付で右各仮換地指定を取り消すとともに、同日付で右各宅地につき新たに仮換地指定(以下「第二次仮換地指定」という。)をした。なお、第二次仮換地指定による八街区及び九街区の仮換地の所在状況は別図2のとおりであるところ、浜松駅前共同ビル組合に属する地権者らが指定を受けた仮換地が所在するのは同図の赤線で囲んだ部分(面積六七〇九・二四平方メートル、以下「本件評価土地」という。)であり、増蔵が指定を受けた八街区三一一番一の仮換地(面積四〇〇・一五平方メートル、以下「本件土地」という。)は同図の青線で囲んだ部分である。

(八) 本件評価土地は、昭和三九年四月二五日直資五六・直審(資)一七国税庁長官通達「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和五七年四月一四日付直評五による改正後のもの。以下「評価基本通達」という。)の地区区分でいう普通商業地区に属し、別図2記載のA、B、C、Dの各路線(以下、右各路線を表記する場合には、同図の符号に従い、「A路線」などのようにいう。)に面しているところ、その間口距離は、A路線、B路線、C路線、D路線の順にそれぞれ五八・〇二六メートル、三六・一九三メートル、一一・八一一メートル、九八・一六八メートルであり、また本件贈与当時の右各路線の路線価は、A路線、B路線、C路線、D路線の順にそれぞれ一五万円、一〇万円、三〇万円、一四万円であった(証人高見功祐、弁論の全趣旨)。

(九) 昭和五六年八月七日、本件評価土地内に存する高松市の私有地の払下げを受ける主体となること及び建設予定の駅前共同ビルを管理することを目的として、浜松駅前共同ビル組合に属する地権者らを株主とする株式会社サンユニオン(以下「サンユニオン」という。)が設立されたが、その設立に当たり増蔵は発起人を努め、また、原告征は溝口英らとともにその代表取締役に就任した。

(一〇) 浜松市は、昭和五六年五月ころまでに、八街区及び九街区内の同市に対して指定された仮換地一二四三・一九平方メートルに係る従前地の払下げを行ったが、その際、本件評価土地内の仮換地に係る従前地については当該仮換地の所在位置による価格差を考慮せず、代金を平均評価額である坪単価八〇万円として地権者らに払下げをした。また、浜松市は、昭和五七年三月八日に、本件評価土地内に残った仮換地四四・三三平方メートルに係る従前地を右と同じく坪単価八〇万円でサンユニオンに払い下げた(乙一七)。

(一一) イトーヨーカ堂が駅前共同ビルに出店することに伴う大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律(以下「大店法」という。)に基づく大規模小売店審議会(以下「大店審」という。)の審議は昭和五九年一一月六日に結審した。

同日、増蔵から原告らに対する本件贈与がなされ、その旨の所有権移転登記が、同年一二月一八日にされた。

(一二) 大店審の結審後、浜松駅前共同ビル組合に属する地権者のうち、高田力、高田花子、中村洋一、中村律子、中村純也及び松永米正が、同組合を脱退する意向を表明したことから、同組合は、昭和六〇年八月一日、右の者らの組合脱退を承認するとともに、右の者らに対し指定されている本件評価土地内の三筆の仮換地(合計面積四三五・七一平方メートル)を本件評価土地の北東隅に指定変更するよう浜松市に求めることにより予定している駅前共同ビルの敷地に対する右の脱退の影響を最小限に押えること、右の仮換地の再指定の求めが浜松市に容れられないときは、右北東隅に仮換地指定を受けている地権者らと右脱退者らとが個別に交渉して仮換地を交換すること、残存する地権者らは、駅前共同ビルの建設を進め、本換地指定後は駅前共同ビルの敷地について合筆を行い、これを右地権者らの共同所有とすることなどを内容とする「センタービル権利者相互間の協定書(Ⅱ)」を締結した(乙二四、証人溝口英)。

(一三) 浜松市は、浜松駅前共同ビル組合からの仮換地変更申請願に基づき、昭和六〇年一〇月一八日付で右(三)の内容に沿った新たな仮換地指定をした。右仮換地指定変更後の駅前共同ビルの敷地は別図3の赤線で囲んだ部分であり、本件従前地について指定された仮換地は同図の青線で囲んだ部分(本件土地に当たる部分)であって、従前と変更はない(原告征本人、証人溝口英)。

(一四) 高田力らが浜松駅前共同ビル組合を脱退した後も、伊藤いさみ、伊藤憲司らが、同組合からの脱退の希望を表明したが、同人らは、結局組合内にとどまり、脱退するまでに至らなかった(原告征本人、証人溝口英)。

(一五) 昭和六〇年一一月二五日に駅前共同ビルの起工式が行われてその建設に着手され、昭和六二年五月ころに竣工し、同年七月ころ同ビルのイトーヨーカ堂の店舗が開店した。

なお、同ビルは、D路線を建物の正面とするようにして建設されている。(甲七の一ないし一三)。

(一六) サンユニオンの株主となった地権者らは、昭和六二年四月付で、各地権者ら相互間において、(1) サンユニオンがセンタービル(駅前共同ビル)を所有すること、(2) 地権者らは駅前共同ビルの敷地である各自の仮換地をその本換地後もそれぞれ所有するが、サンユニオンに対し共同して、一個不可分の地上権を設定すること、(3) サンユニオンの新株発行に際し、権利者に対する交付株式数は、土地の形状に関係なく、地積一坪当たり一〇株の割合とすること等を内容とする「センタービル権利者相互間に協定書(Ⅲ)」を取り交わした。もっとも、駅前共同ビルについては、同年八月二五日にサンユニオンを所有者として表示登記がされたものの、保存登記は未だされていないし、また右地上権の設定もなされておらず、同ビルの敷地利用権は曖昧な状態のまま現在に至っている(甲二、乙一八、証人溝口英)。

(一七) 浜松市は、本件従前地に対する固定資産税の課税に係る土地の評価額を、昭和六〇年度までは従前地を対象として決定していたが、昭和六一年からは本件土地を対象とし、かつ、その評価額の決定に当たっては、駅前共同ビルの敷地部分(別図3の赤線で囲んだ部分)を一画地としてその価額を評価したうえで(なお、その評価に際しては、右一画地を、三方でA路線、B路線及びD路線に面し、そのうちD路線を正面路線とする土地としている。)、これに対する本件土地の面積割合をもって本件土地の評価額としている(甲四の一ないし六)。

(一八) 昭和六二年三月二七日。別図4のとおりの本換地処分公告がされた。

4  本件更正後、大蔵省組織規定(昭和二四年大蔵省令大三七号)の一部を改正する省令(平成元年大蔵省令第五八号)によって浜松税務署が浜松東税務署と浜松西税務署とに分割されたことに伴い、平成元年七月一〇日以降、原告らに対する本件更正に関する権限に属する事務は、原告征及び、同高見秀邦に対する更正については浜松税務署長から浜松西税務署長に、原告高見征邦に対する更正については浜松税務署長から浜松東税務署長にそれぞれ承認された(弁論の全趣旨)。

二  争点

本件は、本件贈与により原告らが取得した本件従前地の共有持分の価額が争われた事案であるが、右共有持分の価額の評価に当たっては、本件贈与時において本件従前地につき土地区画整理事業による仮換地指定がされていることからして、仮換地である本件土地の持分を対象とすべきであるところ(この点については当事者間に争いがない。)、これを前提として、さらに以下の点が具体的な争点となった。

1  本件土地の価額を評価するに当たって、本件土地が本件評価土地の一部であることは特に斟酌せず、本件土地自体を個別的に評価すべきか、それとも本件土地を含む本件土地を一画地とてしその価額を評価した上で、本件土地の価額はその面積割合によって評価すべきか(以下、前者の評価方法を「個別評価」と、後者の評価方法を「一画地評価」という。)。

2  本件土地の価額の評価を一画地評価によることが肯定された場合において、本件評価土地の価額を評価するに当たっては、

(一) どの路線をもって正面路線とすべきか。

(二) 奥行価格逓減率の算出に当たり、その基礎となる奥行距離の算出方法はどのようにすべきか。

(三) 不整形地としての減額をすべきか。

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(被告らの主張)

贈与に係る財産の評価については評価基本通達が定められており、右によれば財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮することとし、宅地の価額は利用の単位となっている「一画地の宅地」ごとに評価するものとされている。

そして、「一画地の宅地」を認定するに当たっては、単に現実の利用を伴うかどうかという事情によるにとどまらず、利用目的等を総合的に判断し土地全体としての状況を観察して定めるべきであるから、たとえ現実に利用されるに至っていない空閑地(未利用地)であっても、近い将来一画地とて利用する目的が定まっており、その実現が確定的と認められる場合には、そのことも斟酌してこれを一画地の宅地であると判定すべきである。

そこで、本件評価土地について右の点を見るに、第一次仮換地指定においては、各仮換地ごとの利用が考慮されてその指定がなされたのに、共同開発グループの地権者(後に浜松駅前ビル建設準備組合を経て駅前共同ビル組合に属することとなる地権者)らの組替要請に応じてなされた第二次仮換地指定は、これにより駅前共同ビル組合に属する地権者に対して指定れた本件土地を含む本件評価土地内の仮換地の所在状況が各仮換地ごとの利用を極端に困難ならしめるようなものであって、本件評価土地を一体利用する以外にその利用の方途が考えられないものであること、あるいはサンユニオンが未だ空閑地の状態であった当時の本件評価土地を駐車場として利用していた際の、その利用状況などを勘案考慮すると、本件評価土地は、本件贈与時点において、経済的観点からみれば、あたかも駅前共同ビル組合に属する地権者ら共有していると同視し得る状態にあったものということができる。したがって、本件土地の価額の評価に当たっては一画地評価によるべきである。

原告らが一画地評価を妨げる事情として主張する地元商店街の反対運動は、大店法三条申請を審議する事前の浜松商業活動調整協議会(以下「事前商調協」という。)の審議が結審した昭和五九年八月三〇日以降は下火になっていて、本件贈与時の一画地評価を妨げるものではない。また本件贈与後に駅前共同ビル組合を脱退した者がいるものの、本件贈与時において右の者らが同組合を脱退するかもしれないというような事情は顕在化しておらず、本件評価土地の評価が本件贈与時を基準にされるべきものである以上、本件贈与後に生じた右事情は一画地評価を妨げるものではない。

なお、浜松市のした固定資産税の課税に係る本件従前地の評価は、本件贈与当時一画地評価の方法によってはないが、右評価は、そもそも本件従前地を対象としているのであるから直接の参考にはならないものであるうえ、現実の利用状況を看過してされたものであって、一画地評価の妨げとなるものではない。

(原告らの主張)

(一) 評価基本通達は、宅地の評価に関し、一画地の宅地ごとに評価するものとし、「一画地の宅地」であるか否かの認定基準は「利用の単位」によるものとしているが(10項)、その文言上、右にいう「利用」が現実の利用を指していることは明らかであり、かつ、現実に利用しているかどうかを基準とすることが最も客観的かつ画一的な基準として妥当である。被告らが、現実の利用以外の一画地の宅地の認定基準として種々主張するところは、いずれも曖昧かつ不明確であって、課税庁の恣意的判断を許すことになり妥当ではないばかりでなく、他の評価実務と比較して一貫性がなく、本件に限った特異な理論であって、不当である。

そこで、本件評価土地について右の点を見るに、駅前共同ビルの建設が着工されたのは昭和六一年であって、本件贈与がなされた時点では、まだ駅前共同ビル建設の準備段階にあったに過ぎず、その敷地としての一体利用はされていない。また本件評価土地には、本件贈与当時において、一部有料駐車場に供されていた部分もあるが、それ以外に、他の形態によって利用されていた部分も残る状態であったから、到底、本件評価土地が一画地として現実に利用されていたということはできない。

仮に、被告ら主張の基準によることとしたとしても、本件贈与が行われた後に、複数の地権者が駅前共同ビル組合を現実に脱退し、その後も脱退希望者が現れるなどしたのであるから、本件贈与当時、駅前共同ビル組合に属する地権者すべてが駅前共同ビル建設を志向して一体となっていたとはいえないうえ、イトーヨーカ堂が出店することについては、地元商店街を中心として根強い反対運動が起きており、昭和五九年一一月六日に大店審が結審した以後も反対運動が直ちに終息したものではなく、駅前共同ビル建設に当たっての障害は未だ存していたというべき状況下にあったのであるから、本件評価土地は、到底一画地としての利用の実額が確定的となっていたものともいえない。

また、地元の行政庁として、本件土地の利用状況を知悉している浜松市は、本件贈与当時、本件土地が使用収益されていなかったことから、固定資産税の課税については本件従前地の評価によっていたもので、昭和六一年になって現実の建設工事に着手されて以後、はじめて駅前共同ビルの敷地を一体として一画地評価の方法により本件土地の価額を評価するようになったものである。

したがって、本件贈与当時の本件土地の価額の評価に当たっては、一画地評価によるべきではなく、個別評価によるべきことが明らかである。

(二) 個別評価により本件土地の価額を評価する場合の評価方法及び評価額は次のとおりである。

本家土地のように一方のみが路線に接し、かつ形状が不整形である宅地の価額は、路線価を基準として、評価基本通達付表1の奥行価格逓減率表に従ってその宅地の奥行き距離に応じた奥行き価格逓減率を求めてこれを乗じ、さらに外周率補正法により不整形地の減価率を求めてその割合を控除して一平方メートル当たりの価額を求めて評価するのが相当である。

本件土地についてこれを見るに、その接しているA路線の路線価は一平方メートル当たり一五万円であり、最長奥行距離は、三六.六〇四メートルであるから、評価基本通達付表1の奥行価格逓減率表による奥行価格逓減率は〇・八九である。また、本件土地の外周線は一〇六・八二メートル、面積は四〇〇・一五平方メートルであるから、補正係数を〇.三として別紙外周率補正法記載の算式により不整形地の減価率を求めると〇・二三四となり、本件土地(面積四〇〇・一五平方メートル)の一平方メートル当たりの価額は一〇万二二六一円となる。

〔算式〕 150,000×0.89×(1-0.234)=102,261

したがって、原告らが本件贈与により取得した本件土地持分の価額は、その持分割合に応じて次のとおりとなる。

(1) 原告征分 七一六万〇九五四円

〔算式〕 102,261×400.15×70/400=7,160,954

(2) 原告征邦分及び同秀邦分 各六六四万九四五七円

〔算式〕 102,261×400.15×65/400=6,649,457

2  争点2(一)について

(被告らの主張)

土地を利用するに当たり、路線価の最も高い路線を正面とした場合に当該土地を最も有効に利用できることから、複数の路線に接する土地の評価に際しては、路線価の最も高い路線を正面路線とし(評価基本通達16項の(1))、右路線に接する間口の状況により当該路線の敷地全体の評価に与える影響が著しく低い場合には、その例外として二番目に路線価の高い路線を正面路線として取り扱うことが相当であり、右は実務上の取扱いでもある。

そこで、本件評価土地についてこれを見るに、 本件評価土地は、路線価の最も高いC路線には一一メートル余りの間口でしか接していないが、本件評価土地が普通住宅地区内ではなく普通商業地区内にあること、本件贈与時点において、C路線は浜松駅前商店街を形成する中心の通りであって、浜松駅前からの人の流れもC路線を中心としていたこと、現に共同開発グループとC路線に面する個連店グループの商店とは、C路線を浜松駅前の表通りと認識したうえ、両グループの共存共栄を図る目的から、C路線にも駅前共同ビルの出入口を設けそこからも客の出入りができるようにして、人の流れが両グループの店舗に沿うようにしたこと、駅前共同ビルの正面も当初はC路線に向ける構想があったことなどからすれば、本件評価土地によってC路線の経済的価値が大きいことは明らかである。

したがって、本件評価土地は、C路線を正面路線とし、四方の路線に接する土地として評価することが相当である。

なお、浜松市のした固定資産税の課税についての評価方法は、前記1で述べたと同様の理由から相当ではない。

(原告らの主張)

評価基本通達においては、路線価の最も高い路線を正面路線とするとされているが、実務上は、従前から例外として、右路線に接する間口の状況により右路線の敷地全体の評価に与える影響が著しく低い場合には、他の路線を正面路線とする取扱いがなされていたところであり、平成三年一二月一八日付の評価基本通達の部分改正の際に、右実務の取扱いが明文化された。

したがって、単に路線価が最も高いという理由だけで、C路線をもって正面路線とする被告ら主張は失当であり、さらにその影響度を勘案して正面路線を決定すべきである。

本件評価土地についてこれを見るに、本件評価土地はC路線と距離にして一一メートル余り接しているが、右の距離は本件評価土地が路線と接している総延長距離に対する割合にして僅か五・七八パーセントであるに過ぎず、本件評価土地の敷地面積が六七〇〇平方メートル余りにもおよぶことなどを考慮すれば、右間口は、本件評価土地にとってみれば、いわば「裏口、勝手口」程度のものでしかないことは明らかであり、右間口に接するC路線の敷地全体の評価に与える影響が著しく低い場合に該当する典型例というべきである。

また経済的影響という点からみても、本件評価土地は、C路線からは、個連店グループの各商店によって遮られるような形状となっており、本件評価土地にとって右路線は路線としての価値が低いものであることは明らかである。

第二次仮換地指定に際し、C路線に対して本件評価土地の間口をこのように残すことになったのは、駅前共同ビルへ向かう人の流れを個連店にも集めることを目論んだ個連店グループの要望にもよるものであり、したがって本件評価土地のC路線に対する間口は、個連店の経済的利益の為に設けられたものであって本件評価土地自体の経済的利益とは何ら関係がなく、本件評価土地が当該間口に接するC路線によって影響を受けるものではない。

そしてこのような状況が、本件贈与が行われた昭和五九年以前から明らかとなっていたことは、その当時から駅前共同ビルの正面は本件評価土地西側のD路線に向くように計画されていたことからも裏付けられる。

以上のことから、本件評価土地について一画地評価をする場合、C路線を正面路線とし、四方路線に接する土地として評価するのは誤りであり、現在駅前共同ビルの正面がある本件評価土地の西側のD路線を正面路線とし、かつC路線は評価のうえで影響がないものとして、三方がD路線、A路線及びB路線にそれぞれ面している土地として評価するのが最も合理的である。

また、この評価方法は、浜松市が固定資産税の課税について本件評価土地の評価においても行っている評価方法であり、合理性がある。

3  争点2(二)について

(被告らの主張)

一般に、宅地の価額は、その宅地が接する路線からの奥行きが長くなるに従って逓減するが、その度合は、宅地の利用形態によって異なるため、利用形態による地区区分ごとに奥行逓減率が評価基本通達の付表1に定められている。そしてまた、奥行逓減率を適用する奥行距離の測定方法は、原則として正面路線に対し垂線的な奥行距離から算定し、奥行距離が一様でないものは、平均的な奥行距離によることとされているが、評価対象土地の地形が不整形で、平均的な奥行距離を求めることができないときは、評価対象土地の地積を、路線に接している間口の距離で除して求めることとされている(評価本準通達二〇項の(1)のロ)

本件評価土地は、右区分にいう普通商業地区に該当し、地形が不整形で各路線に対する平均的な奥行距離を求めることができないところ、各路線に接している間口の距離は、A路線に対しては五八・〇二メートル、B路線に対して三六・一九メートル、C路線に対して一一・八一メートル、D路線に対して七四・八〇メートルであり、また、本件評価土地の面積は六七〇九・二四平方メートルであるから、本件評価土地の各路線からの奥行距離は、A路線に対しては一一五・六二-メートル、B路線に対して一八五・三七メートル、C路線に対して五六八.〇五メートル、D路線に対して六八・三四メートルとなり、評価基本通達付表1の奥行逓減率表により、奥行逓減率はそれぞれ〇・六五、〇・六五、〇・六五、〇・七二となる。

(原告らの主張)

土地の利用形態による地区区分ごとに、評価基本通達付表1に奥行逓減率が定められており、実務においてその付表記載の奥行逓減率を用いた評価が行われているが、奥行逓減率を適用する奥行距離の測定方法は、三角地について最長奥行距離によって逓減率を算定していることとの比較からして、本件評価土地のような不整形地であっても最長奥行距離によって奥行逓減率を算定すべきである。

そうすると、本件評価土地は右区分にいう普通商業地区に該当し、各路線からの最長奥行距離は、A路線に対して一〇八メートル、B路線に対して七九メートル、C路線に対して一〇九メートル、D路線に対して七九メートルであるから、評価基本通達付表1の奥行逓減率表により、奥行逓減率はそれぞれ〇・六六、〇・六九、〇・六五、〇・六九となる。

4  争点2(三)について

(被告らの主張)

不整形地において、画地の全部が宅地としての機能を十分に発揮できないため整形地に比してその利用価値が低くなる場合があることから、評価基本通達は、宅地としての利用に支障が生ずると認められる場合に限り、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、不整形地を三つの類型に分類して合理的と認められる評価方法を示し、その近傍の宅地との均衡を考慮して、三割以内において相当と認められる補正を行うこととしている(20項の(1)のイ、ロ、ハ)。

本件評価土地についてみると、その形状は不整形であるが、総面積が六七〇九・二四平方メートルであって、普通商業地区においては少なくとも適正規模に達しており、宅地としての利用に当たり特に支障がないと認められ、事実イトーヨーカ堂は、駅前共同ビル敷地を何ら死に地を生じさせることなく、有効かつ経済的な土地利用をしているのであるから不整形地補正を行う必要は認められない。

なお、原告ら主張の外周率補正法は、実務で一般的に取り扱われている計算方法ではなく、また整形地として正方形を基準とするため、長方形である限り整形地であっても不整形地としての減価をすべきことになり、不合理な計算方法である。

(原告らの主張)

評価基本通達は「不整形地の価額は、……その価額の一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除した価格によって評価する」(二〇項の(1))として、不整形地であればかならず減価すべきことを規定しているのであるから、形状が不整形であることが明らかな本件評価土地は、必ず何らかの控除をしなければならないことが明らかである。

また、被告らは、イトーヨーカ堂は、駅前共同ビル敷地を何ら死に地を生じさせることなく、有効かつ経済的な土地利用としていると主張するが、その敷地が正方形あるいは長方形であれば現状よりさらに有効な土地利用がされることが明らかであるから、その主張には理由がない。

したがって、本件評価土地について評価するに当たっては、不整形地としての減額補正を行うべきであり、その算定方法としては、前記した外周率補正法が最も合理的であり相当であるところ、本件評価土地の総面積は六二七三・五八平方メートル、外周線は三五八・四五メートルであるから、補正率を〇・三として前記した外周率補正法を用いて減価率を求めると、本件評価土地の不整形地としての減価率は〇・〇八四となる。

5  原告らの取得した共有持分の価額

(被告らの主張)

(一) 本件評価土地につき一画地評価をする場合、C路線を正面路線とし、その四方をA、B、C、Dの各路線に接する土地として評価すべきところ、正面路線とはならないA、B、D路線についての本件評価土地の評価に対する影響についてはB、D路線については側方路線として評価基本通達付表2の側方路線影響加算率表により加算率を〇・一とし、A路線については裏面路線として評価基本通達付表3の二方路線影響加算率表により加算率を〇・〇五とするのが相当である。A、B、C、D路線の路線価は、それぞれ一五万円、一〇万円、三〇万円、一四万円であるから、前記の奥行逓減率を適用して、原告らが本件贈与により取得した共有持分の価額を求めると次のとおりである。

(1) 本件評価土地の一平方メートル当たりの価額 二一万六四五五円

〔算式〕 300,000×0.65+140,072×0.1+100,000×0.065×0.1+150,000×0.65×0.05=216,455

(2) 原告らが本件贈与により取得した本件土地持分の価額は、その持分割合に応じて次のとおりとなる。

原告征分 一五一五万七五三一円

〔算式〕 216,455×400.15×70/400=15,157,531

原告征邦分及び同秀邦分 各一四〇七万四八五一円

〔算式〕 216,455×400.15×65/400=14,074,851

(二) 仮に、原告ら主張のとおりD路線を正面路線とした場合においても、C路線に面していることは評価において考慮すべきであって、本件評価土地は四方を路線に面している土地として評価すべきであるが、その場合A、C路線は側方路線として前記のとおり加算率を〇・一とし、B路線を裏面路線として前記のとおり加算率を〇・〇五として、前記奥行逓減率を適用して、原告らが本件贈与により取得した本件土地持分の価額を求めると次のとおりである。

(1) 本件評価土地の一平方メートル当たりの価額 一三万三三〇〇円

〔算式〕 300,000×0.65×0.15+140,0000×0.72+100,000×0.65×0.05+150,000×0.65×0.1=133,300

(2) この場合の、原告らが本件贈与により取得した本件土地持分の価額は、その持分割合に応じて次のとおりとなる。

原告征分 九三三万四四九九円

〔算式〕 133,300×400.15×70/400=9,334,499

原告征邦分及び同秀邦分 各八六六万七七四九円

〔算式〕 133,300×400.15×65/400=8,667,749

(原告ら主張)

本件評価土地を一画地としては評価する場合、D路線を正面路線とし、A、B、D路線の三方の路線に接する土地として評価すべきところ、正面路線とはならないA、B路線についての本件評価土地の評価に対する影響については、A路線について側方路線として評価通達付表2の側方路線影響加算率表により加算率を〇.一とし、 B路線については裏面路線として評価通達付表3の二方路線影響加算率表により加算率を〇〇五とするのが相当である。A、B、D路線の路線価は、それそれ一五万円、一〇万円、一四万円であるところ、前記した奥行逓減率を踏まえて、原告らが本件贈与により取得した本件土地持分の価額を求めると次のとおりである。

(一) 本件評価土地の一平方メートル当たりの価額 一〇万〇七一四円

〔算式〕 (140,000×0.69+150,000×0.66×0.1+100,000×0.69×0.05)×(1-0.084)=100,714

(二) 原告らが本件贈与により取得した本件土地持分の価額は、その持分割合に応じて次のとおりとなる。

原告征分 七〇五万二六二三円

〔算式〕 100,714×400.15×70/400=7,052,623

原告征邦分及び同秀邦分 各六五四万八八六四円

〔算式〕 100,714×400.15×65/400=6,548,864

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  相続税法二二条は、贈与のより取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除くほか、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、右の時価とは、贈与時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解するのが相当である。

そして、課税実務上、贈与により取得した財産の価額の評価が評価基本通達に従って行われていることは当裁判所に顕著であるところ、右のような課税実務の取扱いは、財産の時価を客観的に評価することは必ずしも容易なことではなく、また、納税者ごとに財産の評価の仕方が区々になることは公平の観点から見て好ましくないことに鑑み、さらに、乙第一九号証によれば、評価基本通達の内容が客観的かつ公平な評価をするうえで合理的な定めであると認められることに照して、相当であるものというべきである。(以下評価基本通達の内容については、右乙第一九号証によってこれを認める。)。

ところで、贈与により取得した財産の時価が現況に応じて評価されるべきものである以上、右財産の評価に際しては、その財産の価額に影響を及ぼすべきですべての事情を考慮すべきこと(評価基本通達1項の(3))はもとより当然である。そして、かかる見地に立てば、贈与により取得した宅地の価額を評価するに際しては、必ずしも贈与された土地の一筆としての範囲に拘泥することなく、その宅地の利用状況に応じ、当該宅地の筆が他の宅地と一体となって利用されているのであれば、他の筆の宅地をも併せた利用の単位となっている一画地の宅地ごとに評価したうえで、個別の宅地を評価することとするのが相当であり(評価基本通達10項)、このことは、贈与された土地がその当時土地区画整理事業による仮換地指定をされている宅地であって、その価額を指定された仮換地の価額によって評価すべき場合(評価基本通達24項)においても同様であるというべきである。

しかるところ、当該宅地が他の筆の宅地と一体となって利用され、これと併せて利用の単位である一画地の宅地を構成しているか否かの認定に当たっては、財産の時価が不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を指すものである以上、所有者の内心の意思にとどまるような主観的事情を斟酌することが相当でないことはいうまでもないが、財産の価額の評価に当たって価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮すべきことからすれば、当該宅地と他の筆の宅地とが現実に一体となって建物の敷地等として利用されている場合にのみ、それを一画地の宅地と認定することが許されるとすることも相当ではない。すなわち、数筆の宅地が、現在においては空閑地であって、一体となって利用されているに至ってはいない段階であっても、その土地全体の状況と利用目的とを総合的に考慮し、近い将来それを一画地として利用する目的が具体的に定まっており、かつ、土地の状況その他から見てその実現が確定的であると認められるような場合においては、その数筆の宅地が利用の単位となっている一画地の宅地を構成するものとし、当該一画地の宅地についての価額の評価を通じて個別の宅地の価額を評価することが相当であるものと解される。

原告らは、実現の利用がなされている場合以外に一画地の宅地と認定することにつき、その認定の基準が曖昧かつ不明確であって、課税庁の恣意的判断を許すものであるとか、他の評価実務と比較して一貫性がないとかと主張するが、右に述べたような事情が客観的に認められるときにこれを一画地の宅地と認定する場合においては、認定の基準が曖昧かつ不明確であるとはいえないし、また、それが他の評価実務による場合と比較すると特異な方法であって、一貫性がないものと認めるに足りる証拠はない。のみならず、仮に右に述べたような事情が存在する場合においても、一画地の宅地として評価することが許されないとすれば、当該宅地の時価を左右することが明らかな客観的事情を、その価額の評価から排除することとなって、かえって課税の公平を損なう結果となるものというべきである。

2  そこで、本件についてこれを見るに、前記第二の一の3の各事実によれば、増蔵を含む本件評価土地内に仮換地の指定を受けた各地権者らは、共同開発グループに属する者であって、本件土地区画整理事業の施行と並行し、その指定を受ける仮換地上に駅前共同ビルを建設することを目的として、浜松駅前共同ビル建設準備組合、浜松駅前共同ビル組合に結成し、さらにサンユニオンを設立したほか、右地権者相互間で仮換地の利用についての協定を締結するなどして、その一体利用を進めてきたものであること、右地権者らは、第一仮換地指定において、本件従前地に対するものも含め、各仮換地ごとの利用が可能であるような仮換地指定を受けたのに、駅前共同ビル建設のため、あえて指定の組替を本件土地区画整理事業の施行者である浜松市に要請し、その結果としてなされた第二次仮換地指定において、浜松駅前共同ビル組合に属する各地権者に対して指定された各仮換地の所在範囲である本件評価土地が、建設予定の駅前共同ビルの敷地と定まったが、本件評価土地内の仮換地自体は、各仮換地ごとの利用が困難であって、事実上、本件評価土地全体を一体的に利用する以外に利用の方法がないような地形、位置等で配置されたこと、第二次仮換地指定後本件贈与時までになされた本件評価土地内の市有地の払下げにおいては、その払下げ価格の決定が当該払下げに係る市有地の所在位置による価格差を考慮せずに、本件評価土地内の土地の価額が一律であるとの前提によって決定されたこと、建設予定の駅前共同ビルについては、イトーヨーカ堂から賃借申込みを受け、本件贈与時までにその出店に伴う大店審の審議が結審するまでの段階に至り、その約一年後に本件評価土地(昭和六〇年一〇月一八日付の仮換地指定により高田力ら脱退者に対して指定された部分を除く。)を敷地として駅前共同ビルの建設工事が開始されたことがそれぞれ認められる。

また、乙第三一ないし第三四号証、証人溝口英の証言、原告征本人の尋問結果および弁論の全趣旨によれば、本件評価土地は、遅くとも昭和五六年二月ころから浜松駅前共同ビル組合又はサンユニオンがこれを管理するようになり、同組合又はサンユニオンは、駅前共同ビル建設工事開始前の一時期に、本件評価土地の一部で有料駐車場の経営に当たっていたことがあるところ、これによって得られた収益は、有料駐車場の所在位置に相当する仮換地に係る地権者のみに帰属されることなく、同組合あるいはサンユニオンの収益とされたうえで、全地権者に対して平等に分配される扱いとされており、このことは本件贈与時においても同様であったこと、本件贈与当時、本件評価土地内に仮換地の指定を受けた地権者らの多くは各自の仮換地の現地における位置がどこであるかの認識を有していなかったことが認められ、これらの事実によると、本件評価土地内に仮換地の指定を受けた地権者らは、各自の仮換地上にそれぞれ個別的な権利を有するとの意識が希薄であって、むしろ、各自の仮換地の集合である本件評価土地全体について、あたかもこれが共有物であってこれに対し割合的権利を有するというような意識でいたことが認められる。

以上のような事実関係によると、本件評価土地は、本件贈与時において、空閑地として未だ一体的な利用がされていなかったものの、近い将来それを一画地として駅前共同ビルの敷地として利用する計画が具体的に定まっており、かつ、本件評価土地を構成する各仮換地の地形や所在位置、右計画の進捗状況、各地権者の意識その他の事情に鑑みて、その実現が確定的であると認めることができる。

原告らは、本件贈与後に、浜松駅前共同ビル組合を脱退した地権者や、脱退希望を表明した地権者があること、駅前共同ビルの賃借人としてイトーヨーカ堂が出店することについては、地元商店街などの根強い反対運動があり、大店審が結審した以後もその反対運動が直ちに終息したものではないことなどを挙げて、本件贈与時において、本件評価土地が一画地として駅前共同ビルの敷地として利用されることが確定的になっていたとはいえない旨主張する。

そして、本件贈与後に、浜松駅前共同ビル組合を脱退した地権者や、脱退希望を表明した地権者があることは、前記第二の一の3の(一三)及び(一四)のとおりであるが、前述のような本件評価土地を構成する各仮換地の地形や所在位置、駅前共同ビル建設計画の進捗状況等に照せば、本件贈与時において、その後同組合からの脱退者が出ることにより本件評価土地を一画地として駅前共同ビルの敷地として利用する計画が頓挫するに至るであろうとの予測を可能とするような状況ではなかったと認められ、そうであるとすれば、その後、偶々浜松駅前共同ビル組合を脱退した地権者や、脱退希望を表明した地権者が生じたとしても、そのことの故に、本件贈与時において本件評価土地が一画地であると評価することが妨げられるものとはいえない。

また、甲第一二号証の一、二、乙第二、第六、第七、第一〇号証、証人溝口英の証言、原告征本人の尋問結果及び弁論の全趣旨によれば、イトーヨーカ堂は、昭和五五年七月二九日浜松駅前共同ビル組合に属する地権者らとの間で、駅前共同ビルの賃借について合意をした当時から、地元商業者団体などの出店反対の意思表明を受けて、大店法に基づく規則が厳しいであろうと予想し、売場面積を充分に確保できない場合には出店を断念することがあるかもしれない旨サンユニオンの代表取締役であった原告征との間で確認するなどしていたこと、現実にも、イトーヨーカ堂の出店に対する反対運動は地元の国会議員などを巻き込む熾烈なものとなり、また、大店法に基づく手続も昭和五六年七月ころ、同法三条に基づく申請を静岡県に対して以来、大店審の結審まで三年以上要したことが認められる。しかしながら、本件贈与がなされた昭和五九年一一月六日に大店審が結審したことにより、イトーヨーカ堂が駅前共同ビルを賃借して出店することについての法的障害は一応その大部分が消滅したものということができるばかりでなく、これによって右の出店反対運動が終息に向かうことが予想される状態となったものと推認することができ(原告征本人尋問の結果によれば、現に、同日以後、右出店反対運動が下火になったことが認められるほか、大店審結審後の駅前共同ビルの建設着工に至った経緯からも右推認が裏付けられる。)そうすると、大店審結審後も反対運動が継続していたとして、本件評価土地の一画地の宅地としての利用が確定的でなかったとする原告らの主張は到底認め難い。

以上のとおり、本件贈与当時において、本件評価土地は一画地の宅地と認定することが相当であり、したがって、本件評価土地の一部である本件土地の価額を評価するに当たっては、一画地評価の方法によりこれを行うべきである。

二  争点2(一)について

評価基本通達では、正面路線とは「路線価の高い方の路線をいう。」とされているだけで(16項の(1))、その例外的取扱いが許される場合があるか否かについては直接規定されていない。しかしながら、甲第一五号証、証人高見功祐の証言及び弁論の全趣旨によれば、評価基本通達において正面路線を路線価の高い路線としたのは、路線価の最も高い路線を正面とした場合に当該土地を最も有効に利用できるとの理由によるものであること、課税実務上、評価基本通達に基づく場合においても、路線に接する間口が狭隘であることその他の事由により路線価の高い路線の敷地全体の評価に与える影響が著しく低い場合には、例外的に右路線を正面路線と取り扱わないとされていたこと、平成三年一二月一八日付課評二-四(例規)・課資一-六国税庁長官通達「相続税財産評価に関する基本通達の一部改正について」によって、評価基本通達を一部改正したうえその題名を改めた通達である財産評価基本通達においては、正面路線は「原則として、前項の定めにより計算した一平方メートル当たりの価額の高い路線をいう」(同通達16項の(1))とされており、これは右の従来の実務上の取扱いを明文化したものであることが認められ、右事実に徴すれば、本件評価土地の価額を評価するに当たって も、路線価の最も高いC路線について、それを正面とすることが本件評価土地の最有効利用に繋がるとはいえない事由があり、右路線が本件評価土地の価額に与える影響が著しく低いものと認められるとすれば、これを正面路線としないこととするのが相当であるというべきである。

しかるところ、前記第二の一の3の(七)、(八)及び(一五)の各事実に甲第七号証の一ないし一三、第一一号証及び証人溝口英の証言並びに弁論の全趣旨を併せ考えると、本件評価土地がC路線に接している間口部分は一一メートル余りであり、右距離は本件評価土地が路線に接している総延長距離に占める割合にして五・八パーセントにすぎないのみならず、本件評価土地の総面積が六七〇九・二四平方メートルであることと対比しても狭隘であるというべきこと、本件評価土地は全体として梯形に近い形状をしているところ、そのC路線に面する間口は、これを梯形と見立てた場合の斜辺の一方の底辺寄り付近において突出した小四辺形の先端に相当する部分に位置するうえ、本件評価土地の外縁の一部が右間口付近に追っていて、右間口をその正面進入口とはなし難い状況であること、駅前共同ビルはその建設計画の当初から、D路線を正面路線として利用することが予定されており、現実にもそのように建設されたことが認められ、右各事実に乙第二号証によって窺える浜松駅とAないしDの各路線の位置関係並びに本件評価土地のA路線、B路線及びD路線との各間口距離等を総合すると、C路線を本件評価土地の正面とすることがその最有効利用に繋がるものといえない事由があり、その本件評価土地の敷地全体の価額の評価に与える影響は著しく低いものと認められる。したがって、C路線をもって正面路線とすることは相当ではなく、むしろ、右各事情に徴すれば、本件評価土地は、D路線をその正面とした場合にその最有効利用が図られるものと考えられるので、D路線をもってその正面路線とすることが相当であると認められる。

なお、原告らは、D路線を正面路線とする場合において、C路線は、評価のうえで影響がないものとして、本件評価土地は三方でD路線、A路線及びB路線にそれぞれ面する土地として評価すべきであると主張するが、本件評価土地が現実にC路線に面している以上、その影響が前記のとおり低いものであるとしても全くないものとは考えられず、かつ、路線についての影響度の高低については、その路線に対する奥行逓減率あるいは、側方影響加算率等によって調整するのが評価基本通達に基づく算定方法であると解されるから、右評価基本通達を離れて、C路線を考慮の外におくことが相当でないことは明らかである。

三  争点2(二)について

評価基本通達によれば、奥行価格逓減率を求めるに当たり、付表1の「奥行価格逓減率表」を適用する場合の基準となる奥行距離の求めかたについて、原則的には、路線に対する当該宅地の現実の奥行距離の値によるものとするものの(15項)、本件評価土地のような形状の不整形地については、その宅地の地積を間口距離で除して得た計算上の奥行距離によるべきことを定めている(20項の(1)のロ)。

しかして、原告は、右の奥行距離の算出方法について、三角地の場合においては最長奥行距離によって逓減率を算定していることとの比較から、本件評価土地のような不整形地であっても最長奥行距離によって奥行逓減率を算定すべきである旨主張する。

しかしながら、評価基本通達によれば、三角地については、前記の原則的な方法によって求められる奥行距離を基準として奥行価格逓減をしたうえで、さらに角度補正率ないし面積補正率により三角地補正をすることとしているのであり(19項)、したがって、三角地が不整形地の一種であるとはいえ、その価額の評価は他の不整形地とは別異の方法によるものとされているのであるから、その評価方法の一段階である奥行価格逓減の方法のみを取り上げて、他の不整形地の場合と比較し、他の不整形地においても三角地の場合と同様の方法による奥行価格逓減を行うべきであるとする原告の主張が失当であることは明らかである。

四  争点2(三)について

評価基本通達は、不整形地の価額につき、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、所定の方法によって計算した価額を基に、その近傍との均衡を考慮して、その価額の一〇〇分の三の範囲内において相当と認める金額を控除した価額によって評価するものと規定するが(20項の(1))、右控除額を算出するに当たっての一〇〇分の三〇以下の割合についての具体的な基準については何らの定めもしていないところ、弁論の全趣旨によれば、右規定は、画地の形状が不整形である場合、建物の形状が通常矩形であることもあって、画地の全部が宅地としての機能を十分に発揮できない場合があり得ると考えられることから、そのような整形地と比較した場合の利用価値の低下をその価額の評価に取り込む趣旨で定められたことが認められる。そうであるとすれば、画地の形状が完全な正方形又は矩形ではないとしても、その画地の面積がおおむね適正規模かそれ以上であり、かつ、不整形の程度が比較的小さいような場合においては、宅地としての利用に当たり特に支障がないというべきであるから、そのようなものについてまで、右規定による減額を行うことはかえって相当ではなく、これをすることを要しないものと解するのが相当である。評価基本通達の「一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除する」との文言も、不整形地であれば必ず右規定による減額をすべきもるすのものではなく、右のような減額を不要とする場合をも含んでいるものと解すべきである。

そこで本件評価土地についてこの点を見るに、本件評価土地は不整形地ではあるもののその程度は比較的小さいものというべきであり、また、総面積は六七〇九・二四平方メートルであって、普通商業地区においては少なくとも適正規模に達していることは明らかであるから、宅地としての利用に当たり特に支障がないものと認められ、したがって、右の規定による不整形地の減額をすることを要しないものと解するのが相当である。

五  本件土地の価額及び原告らに対する各贈与税の課税価格

1  以上述べたところに従い、かつ本件評価土地の形状その他の状況を斟酌して、本件贈与当時の本件土地の価額を算出すると次のとおりとなる。

本件贈与当時の本件土地の価額を算出すると次のとおりとなる。

(一) D路線を本件評価土地の正面路線とする場合においては、A路線及びC路線については側方路線(評価基本通達16項)とし、B路線については裏面路線(評価基本通達17項)として、評価基本通達18項に則って本権評価土地の価額を評価することが相当であり、この場合、前記第二の一の3の(八)のとおり、本件評価土地は普通商業地区に属するから、A路線及びC路線についての側方路線影響加算率はともに〇・一、B路線の二方路線影響加算率は〇・〇五である(評価基本通達付表2及び3)。

(二) D路線(正面路線)の路線価に基づき計算した価額

(1) 路線価 一四万円(前記第二の一の3の(八))

(2) 奥行価格逓減

本件評価土地の地積は六七〇九・二四平方メートル(前記第二の一の3の(七))、D路線に対する間口距離は九八・一六メートル(同(八))であるから、奥行距離は六八・三四メートルとなり(評価基本通達20項の(1)のロ)、前記のとおり本件評価土地は普通商業地区に属するから、奥行価格逓減率は〇・七二である(評価基本通達付表1)。

(3) 一平方メートル当たりの価額 一〇万〇八〇〇円

〔算式〕 140,000×0.72=100,800

(三) A路線(側方路線)の路線価の正面路線の路線価とみなし、これに基づき計算した価額に側方路線影響加算率を乗じて計算した価額

(1) 路線価 一五万円(前記第二の一の3の(八))

(2) 奥行価格逓減

前記のとおり本件評価土地の地積は六七〇九・二四平方メートルであり、A路線に対する間口距離は五八・〇二六メートル(前記第二の一の3の(八))であるから、奥行距離は一一五・六二メートルとなり(評価基本通達20項の(1)のロ)、前記のとおり本件評価土地は普通商業地区に属するから、奥行価格逓減率は〇・六五である(評価基本通達付表1)。

(3) 側方路線影響加算率 〇・一

(4) 一平方メートル当たりの価額 九七五〇円

〔算式〕 150,000×0.65×0.1=9,750

(四) C路線(側方路線)の路線価を正面路線の路線価とみなし、これに基づき計算した価額に側方路線影響加算率を乗じて計算した価額

(1) 路線価 三〇万円(前記第二の一の3の(八))

(2) 奥行価格逓減

前記のとおり本件評価土地の地積は六七〇九・二四平方メートルであり、C路線に対する間口距離は一一・八一一メートル(前記第二の一の3の(八))であるから、奥行距離は五六八・〇五メートルとなり(評価基本通達20項の(1)のロ)、前記のとおり本件評価土地は普通商業地区に属するから、奥行価格逓減率は〇・六五である(評価基本通達付表1)。

(3) 側方路線影響加算率 〇・一

(4) 一平方メートル当たりの価額 一万九五〇〇円

〔算式〕 300,000×0.65×0.1=19,500

(五) B路線(裏面路線)の路線価を正面路線の路線価とみなし、これに基づき計算した価額に二方路線影響加算率を乗じて研鑽した価額

(1) 路線価 一〇万円(前記第二の一の3の(八))

(2) 奥行価格逓減

前記のとおり本件評価土地の地積は六七〇九・二四平方メートルであり、B路線に対する間口距離は三六・一九三メートル(前記第二の一の3の(八))であるから、奥行距離は一八五・三七メートルとなり(評価基本通達20項の(1)のロ)、前記のとおり本件評価土地は普通商業地区に属するから、奥行価格逓減率は〇・六五である(評価基本通達付表1)。

(3) 二方路線影響加算率 〇・〇五

(4) 一平方メートル当たりの価額 三二五〇円

〔算式〕 100,000×0.65×0.05=3,250

(六) 側方路線影響加算及び二方路線影響加算後の本件評価土地の一平方メートル当たりの価額 一三万三三〇〇円

〔算式〕 100,800+9,750+19,500+3,250=133,300

(七) 本件土地の価額

本件土地の地積は四〇〇・一五平方メートルであるから(前記第二の一の3の(七))、右(六)の本件評価土地の一平方メートル当たりの価額一三万三三〇〇円に右本件土地の地積四〇〇・一五平方メートルを乗じて得た本件土地の価額は、五三三三万九九九五円である。

2  そして右1の(七)の本件土地の価額に基づき原告らが本件贈与により取得した共有持分の価額を求めると、その持分割合に応じて次のとおりとなる。

(一) 原告征分 九三三万四四九九円

原告征が本件贈与により取得した本件土地の四〇〇分の七〇の割合の共有持分の価額は、本件土地の価額五三三三万九九九五円に右共有持分の割合を乗じて得た九三三万四四九九円である。

(二) 原告征邦分及び同秀邦分 八六六万七七四九円

原告征邦及び同秀邦が、本件贈与によりそれぞれ取得した本件土地の各四〇〇分の六五の割合の共有持分の価額は、いずれも本件土地の価額五三三三万九九九五円に右共有持分の割合を乗じて得た八六六万七七四九円である。

六  原告らに対する各昭和五九年分贈与税に係る課税価格は、それぞれ右五の2の本件贈与により取得した本件土地の共有持分の価額に相当する額であり(相続税法二一条の二)、その贈与額は、原告征については、右課税価格から基礎控除額六〇万円(同法二一条の五)を控除した八七三万四〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に相続税法二一条の七所定の区分に従い同条の税率を乗じた金額を合計して算出した三五〇万八七〇〇円、原告征邦及び同秀邦については、右課税価格から前記基礎控除額六〇万円を控除した八〇六万七〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に相続税法二一条の七所定の区分に従い同条の税率を乗じた金額を合計して算出した三一四万円一八〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数切捨て)となるところ、本件更正に係る課税価格及び税額はいずも右課税額格及び課税の範囲内であるから、本件更正はいずれも適法である。

第四結語

よって、原告らの本件請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 荒川昴 裁判官 石原直樹 裁判官 森崎英二)

(別紙)

物件目録

一 浜松市海老塚町ミウチ三一一番一

宅地 一〇一・五二平方メートル

二 浜松市海老塚町ミウチ三一一番一

宅地 一〇一・四二平方メートル

三 浜松市海老塚町ミウチ三一三番一

宅地 二一六・三九平方メートル

以上

別表1

原告高見征にかかる本件課税処分の経緯

<省略>

別表2

原告高見征邦にかかる本件課税処分の経緯

<省略>

別表3

原告高見秀邦にかかる本件課税処分の経緯

<省略>

別紙

<省略>

別図1~4省略

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